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東京高等裁判所 昭和36年(く)64号 判決

被告人 永田義一 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定が刑事訴訟法第十九条の規定は地方裁判所本庁とその支部との間にはその適用がないものとして申立人らの移送請求を却下したのは、法令の解釈を誤り不当であるから、原決定を取消し本件被告事件を横浜地方裁判所に移送する旨の決定を求める、というのである。

即ち、原決定は地方裁判所本庁とその支部との間においては事務分配の規定によつて事件処理の配分をすべきである、というのであるが、その実質は裁判所の土地管轄による事件配分と何ら異るところなく、仮に本庁と支部との間に刑事訴訟法第一九条の適用がないとすれば、支部に係属する事件について、支部で審理することが不適当である場合、国民の公平且迅速な裁判を求める権利を奪う結果となり、憲法及び刑事訴訟法の精神を蹂躙すること明らかである。と主張するのである。

よつて勘案するのに、地方裁判所支部は、裁判所の管轄については本庁の一部であつて本庁より独立して管轄を有しないのであるから、刑事訴訟法第一九条の移送に関する規定は、地方裁判所支部とその本庁との間にはこれを適用するに由なく、支部に係属する事件を本庁において審判するを相当と認めるときは裁判所の事務処理規程によつて処理すべきである。されば横浜地方裁判所小田原支部に係属中の本件被告事件について、申立人よりなされた横浜地方裁判所への移送請求は不適法であること明瞭であつて、これを却下した原決定は正当である。よつて本件抗告はその理由がないから刑事訴訟法第四二六条第一項によりこれを棄却すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 兼平慶之助 斉藤孝次 関谷三郎)

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